若い頃と同じように生活していても、高齢になると脱水を起こしやすくなります。それには、大きく分けて3つの理由があります。
人間の体は多くの水分でできていますが、その水分を溜め込んでおくタンクの役割を果たしているのが筋肉です。高齢になるとどうしても筋肉量が落ちてしまうため、体内に蓄えておける水分の量自体が少なくなります。若い人なら少し汗をかいても予備の水分でカバーできますが、高齢者はもともとの蓄えが少ないため、少し水分が失われただけであっという間に脱水状態に陥ってしまいます。
私たちの脳には、体内の水分不足を感知して喉の渇きを感じる機能があります。それにより、水分を摂り、脱水を予防していますが、加齢とともにこの機能が低下します。そのため、体は水分が必要な状況にもかかわらず、本人は全く喉の渇きを感じていない、という現象が起きます。体は脱水でも本人は「喉乾いていないから、水分はいらないよ」と発言する状況がよく起きるのは、このためです。
「夜中に何度もトイレに起きたくない」、「スタッフに排泄介助をお願いするのは申し訳ない」、「尿漏れパッドを汚したくない」といった遠慮や尊厳の観点から、あえて水分を摂らないようにしている高齢者は少なくありません。
また、血圧の薬などの中には、尿の量を増やす利尿作用を持つものもあり、本人が気づかないうちに体から水分がどんどん出ていってしまうことも、脱水になりやすい大きな要因となります。
脱水は、ある日突然重症化するわけではありません。初期段階でサインを出していることが多いです。日々の着替えや排泄介助、食事の場面で、以下のポイントに注意して日常の介護にあたってください。
尿の回数の変化:健康な80歳以上の高齢者の場合、1日の平均的な排尿回数は5〜8回程度(うち夜間が1〜2回)と言われていますが、重要なことは、日常との比較になります。もし、いつもは日中4回くらいトイレに行くのに、1回しか行っていない場合や、お昼にパッドを替えたのに、夕方になっても全く濡れていない、といった場合は、脱水のサインとなるので注意しましょう。
尿の色・臭いの変化:脱水の際は、尿の色は濃い黄色になり、においも強くなる傾向にあります。
皮膚の変化: 手の甲の皮膚を優しく指でつまんで、パッと離してみてください。水分が足りているとすぐに元に戻りますが、脱水気味だと、おおよそ2秒以上皮膚が盛り上がったまま戻らなくなります。ただし、元々皮膚の弾力が低下している方の場合は、脱水前後でのこの変化はわかりにくいので、そういった方に対しては皮膚自体の乾燥で判断します。
舌の変化: 舌が乾いたスポンジのようになっていたり、唾液がネバネバして糸を引いている場合は水分が不足しています。
介護現場で特に気をつけたいのが、インフルエンザなどの感染症にかかった時の脱水です。感染症にかかった際は、一般的に発熱によって汗をかき(高齢者の場合、汗が少ないこともある)、熱があるため呼吸が荒くなり、その呼吸から水分が外に出ていきます。呼吸が荒くなるだけで目に見えない水分が体から奪われていきます。そして、脱水によりさらに感染症の症状が強くなる、といった悪循環に高齢者の場合は、特に陥りやすくなります。
なお、感染症の中でもノロウイルスなどの胃腸炎による下痢・嘔吐は、体内の水分と塩分を急激に外に排出してしまうため、最も脱水リスクが高い状態です。下痢による脱水ケアについては非常に重要ですので、別のコラムで詳しく解説いたします。
脱水の兆候に気づいた時には、基本的にかかりつけ医や連携先医療機関に連絡をするようにしましょう。ただし、脱水は命にかかわることがあるため、即時に医療機関に受診するべき症状があることも知っておきましょう。なお、意識レベルが落ちている際は、無理に口から飲ませようとするのは危険なので、口からの水分摂取は行わないようにお願いします。
前述の「現場で気づける脱水のサイン」があった場合は、連携先医療機関等に対応を相談するようにしましょう。
意識レベルの低下・けいれん: 肩を叩いて名前を呼んでも目を開けない、いつもは会話ができる方がつじつまの合わないことを話す(せん妄状態)。けいれんを起こしている。
急激な血圧低下・脈の異常: いつもより血圧が極端に低い、脈が触れにくい、または異常に速い。
繰り返す嘔吐:食事を摂らずに嘔吐を繰り返している(脱水が原因でないこともあるが受診推奨)。
もし、看護師が施設に常駐し、配置医やかかりつけ医等の指示ですぐに点滴(静脈点滴や、皮下に水分を入れる皮下点滴など)を実施できる体制がある施設の場合は、飲水量が減ってきた段階で、早めの報告を行い、早期に点滴実施の判断を行うようにしましょう。脱水にもかかわらず発熱等で飲水が難しい場合、重症化することが多く、その際に早期に点滴対応ができれば、入院リスクを下げることが可能になります。職員の方の早めの気づきが、入居者のQOL(quality of life)を上げるだけでなく、施設側の負担も減らすことに繋がります。
施設内の生活の中で脱水を防ぐための方法はいくつかあります。日常から実践することで、脱水やその重症化を予防できる可能性が高まります。
高齢者は喉の渇きを感じにくいため、質問されても「いらない」と答えることが多くなります。そのため、入浴の前後、リハビリやレクリエーションの後、朝食と昼食の間の時間など、タイミングを決めて、水やお茶や場合により経口補水液を提供する仕組みを作ることが脱水予防には重要になります。また、一度に大量に飲むのは心臓や腎臓の負担や食欲の低下につながることがあるため、医師の指示がある場合は、それを優先しましょう。
高齢者の場合、1日に必要な水分は約2,000mL~2,500mLで、その約半分程度は食べ物から摂取しています。食べ物の参考水分量は下記となります。
ご飯(お米):約60%が水分
野菜・果物:約80〜90%が水分
ゼリーやプリン:約80〜90%が水分
お茶や水をどうしても嫌がる方には、無理に勧めるのではなく、おやつに水分の多い果物(スイカ、みかん、桃など)、口当たりの良いゼリー、好きな方にはお米をお粥として提供してみましょう。また、食事を残すことが多い方には、汁物や水分の多い小鉢を優先して召し上がって頂くことも非常に有用です。ただし、嚥下機能が低下している方に対しては、食形態に注意し、指示に則る形での提供をお願いします。
高齢者、特に認知症の方は、好みに応じた介護が重要となります。そのため、水分摂取がすすまない方には、温度や味を調整した提供方法も検討しましょう。具体的には、お茶の渋みが苦手という方にはスポーツドリンクを薄めたものや麦茶、場合によっては甘い飲み物を提供する場合もあります。
脱水予防で最も重要なことは、一番近くにいる介護スタッフの皆さんによる日々の細やかな観察と工夫・対応です。「尿の量が減っていないか」「いつもと活気に違いはあるか」「どうすれば食べてもらえるか」など、そんな毎日の当たり前の業務の中に、脱水を防ぐヒントが隠されています。また、早期に脱水症状に気づけることで、その原因となっている感染症などの診断も迅速に行うことが可能となり、高齢者の方々の健康上の負担を大きく減らすことができます。このコラムでご紹介した知識が、皆様の毎日のケアに少しでも役立ち、入居者様が健やかに過ごせる一助となれば幸いです。