若い頃は多少の暴飲暴食でも平気だった人でも、高齢になると下痢を起こしやすくなります。これには、主に4つの理由があります。
高齢者は加齢により免疫力が低下しており、感染症にかかりやすい状態です。ノロウイルスなどの病原体による感染性胃腸炎が原因で、激しい下痢が発生することがあります。 また、施設内での集団生活は、ウイルスや細菌が広がりやすく、蔓延しやすい環境でもあります。
高齢者は加齢に伴う消化管機能の変化に加え、基礎疾患や服薬などの影響により、消化・吸収機能が低下することがあります。そのため、食事の内容によっては十分に消化・吸収できず、下痢を引き起こしやすくなります。腸内環境(善玉菌と悪玉菌のバランス)が乱れがちになることも、要因の一つです。
高齢者は複数の慢性疾患を抱え、多くの薬を服用していることが少なくありません。抗生物質、血圧を下げる薬、痛み止め薬、胃薬などの薬剤の副作用として下痢が発生することが多々あります。また下剤の効きすぎによる下痢も多く発生します。
過敏性腸症候群などの腸の疾患だけでなく、糖尿病や甲状腺機能の異常など全身疾患の症状として下痢が現れることがあります。また、意外な落とし穴として、頑固な慢性便秘があります。硬い便が腸に詰まっている(便秘)にもかかわらず、その隙間を縫って水のような便だけが排泄される「逆説的な下痢」が見られることも高齢者では珍しくありません。
排泄介助の際、早期に便の変化に気づくことが、早期対応につながり、重症化を防ぐ第一歩となります。以下に観察するポイントを示します。
介護現場で警戒すべきなのは、ノロウイルスなどのウイルス性胃腸炎等による下痢です。これらは非常に強い感染力があり、施設内での集団感染に直結します 。
感染性胃腸炎では、激しい下痢や嘔吐により、体内の水分と塩分が急激に失われます。高齢者はもともと体内の予備となる水分が少ないため、あっという間に脱水状態に陥ります。そして、脱水により体力が奪われ、水分摂取や食事が困難となり免疫力が低下することで、さらに感染症の症状が重症化する、という悪循環に陥りやすくなります。
感染症による下痢症状と脱水の悪循環
オムツ交換や汚物処理の際は、標準予防策(スタンダード・プリコーション)を徹底し、スタッフ自身が感染源とならないよう、手洗いと衛生管理をこれまで以上に厳重に行う必要があります。
利用者に下痢症状が見られた場合は、基本的には看護師に報告し、かかりつけ医や配置医等に連絡をとるようにしましょう。特に高齢者の下痢は急変のリスクがあるため、受診すべきタイミングを知っておくことが重要です。
前述の「現場で気付ける下痢症状の観察ポイント」において、いつもと違う変化がある場合は、連携先医療機関等に対応を相談するようにしましょう。
<すぐに医療機関へ受診すべきサイン>
看護師が施設に常駐している場合は、下痢の回数が増えてきた段階で早めに看護師へ報告し、看護師は医師の指示のもと、脱水予防のための水分・電解質の調整や、皮膚トラブルを防ぐためのケア、場合によっては点滴対応の必要性を早期に判断するようにしましょう。早めの気づきと報告が、重症化を防ぎ、利用者の身体的負担を減らすだけでなく、施設側の緊急対応の負担も減らすことに繋がります。
施設内での下痢症状への対応と予防策はいくつかあります。日常から実践することで、重症化を防ぎ、利用者のQOLを維持できる可能性が高まります。「介護現場における高齢者の脱水症状と対策」のコラムでお伝えしたことも含めてあらためて工夫をまとめます。
下痢の初期段階では、腸を安静に保ちつつ、失われた水分と電解質を補給することが最優先です。
下痢は刺激が強く、頻繁な排泄は臀部の皮膚を傷つけ、オムツかぶれや褥瘡の原因となることがあります。そのため、皮膚のケアが重要となります。
特に感染性胃腸炎が疑われる場合は、以下の対応を徹底します(詳細は 「高齢者施設におけるノロウイルス予防と感染管理」等をご覧ください)
下痢ケアにおいて最も重要なことは、一番近くにいる介護スタッフの皆さんによる日々の細やかな観察と工夫・対応です。「便の様子がいつもと違わないか」、「お腹を痛がっていないか」、「お尻を清潔に保てているか」など、そんな毎日の当たり前の業務の中に、重症化を防ぐヒントが隠されています。また、早期に下痢症状に気付けることで、その原因となっている感染症の診断なども迅速に行うことが可能となり、利用者の方々の健康上の負担を大きく減らすことができます。このコラムでご紹介した知識が、皆様の毎日のケアに少しでも役立ち、利用者が健やかに過ごせる一助となれば幸いです。