人間が成長発育に必要な栄養素を体内に摂りこむ方法は,大きく分けて吸啜機能(乳汁などを吸う動き)と摂食嚥下機能(噛んで飲み込む動き)の2つがあります。産まれてからおおよそ4から5か月までは,吸啜機能を使って乳汁を体内に摂りこみます。
この動きは自らの記憶には全くないはずですが,生命維持に不可欠な動きですのでとても重要です。もし身近に新生児がいるならば,母乳や哺乳瓶からミルクを飲む様子を観察してみるといいでしょう。くちびる,舌(舌は外から観察できませんが)、顎などをリズミカルに,かつ協調的・持続的に動かして器用に乳汁やミルクを飲んでいるはずです。
しかしながら,5か月頃以降はこういった動作は次第に変化,消失していき,離乳食のような固形食をスプーンなどを用いて口に摂りこみ,舌で押し潰したり噛んだりしてから飲み込むようになります。この機能は,生まれながらにして持っているものではなく,出生直後からの口への刺激や運動体験を通して獲得されるものです。その基本動作は,生後約1年の間に獲得されます 。
定型発達児の摂食嚥下機能の発達過程は,心身の成長発達をもとに次の項の8段階に分類されています 。この段階は,必ずしも順序通りに進むものではありませんが,こどもの発達を整理するうえで役に立ちます。
くちびる,舌,頬などが一体化して動き,探索反射や吸啜反射などの原始反射によって,乳汁を摂取する吸啜運動が営まれます。この時期は,乳汁以外の食物を口腔から取り込むための準備の時期と捉えることができます。
大脳の発達に伴い原始反射が消失し,嚥下の動きがみられ始めます。吸啜とは異なり,口を閉じたときに舌の先端を口蓋(上あご)の前方に押しつけ食物を嚥下できるようになります。この時,下のくちびるが内側に入り込むような動き(下唇内転)がみられ,舌の前後方向への動きにより食塊がのどの方へ移送されるようになります。
上下の口唇を閉じて食物を口腔内へ摂りこむ動きを捕食といいます。吸啜運動では開閉口の動きは必要ありませんでしたが,この時期には食物を「お口に入れるものだ!」と認識して,自らの意志で捕食することができるようになります。食物形態は,初期食が適しているといえます。
舌の上下運動により舌が口蓋に押し付けられ,軟らかい固形食をつぶして嚥下できるようになります。乳前歯(乳歯の前歯)が生え始める時期と重なることが多く,食物形態は中期食に移行し始めます。
さらに硬い固形食を歯肉(歯ぐき)ですりつぶして食べられるようになります。舌の左右運動と頬が協調して動き,食物をどちらかの歯肉の上に繰り返し運ぶことが可能となります。上下の乳歯が4本ほど生え,身体の動きも活発になります。食事形態は中期食から後期食へ移行しながら,咀嚼の基本となるすりつぶす動きを獲得していきます。
自分で食べるための動作(自食動作)を獲得するために,手指や上肢の動きと口や顔との動きを連動させる必要があります。そのために玩具などを用いた準備期間と手づかみで食べる練習期間を基礎として,スプーンなどの食具を利用した機能が獲得されていきます。
以上のように,およそ1年かけて(1)から(5)の過程を経て,離乳の完了をむかえ,噛んで食べる機能が獲得されていきます。その後に自分ひとりで食べる,食の自立に向けての機能が獲得されるわけですが,(6)から(8)の機能獲得は順序通り進むとは言い切れず,例えば(4)の後に(7)のプロセスをむかえることもあることを知っておいていただけるとよいでしょう。
1)金子芳洋:心身障害児における摂食機能障害のリハビリテーションに関する一連の研究と臨床開発,昭歯誌,9: 87-96, 1989.
2) 向井美恵:摂食機能療法-診断と治療法-.障歯誌,16: 145-155, 1995.