みなさんは、自分が1日に摂取している栄養量や栄養バランスを計算したことがありますか。また、必要な栄養量を十分に摂取できているか確認したことはありますか。
令和6年度の国民健康・栄養調査では、65歳以上高齢者の19.5%が低栄養傾向(BMI20kg/m²以下)とされています。 低栄養状態が続くと、筋肉量や筋力が低下し、活動量の減少や感染症への抵抗力の低下など、全身の機能低下につながります。痩せている高齢者は死亡リスクが有意に高いとも報告されています。さらに、1〜79歳の日本人4,450人を対象とした調査研究では、脂質やナトリウムを除く多くの栄養素で、推定平均必要量を満たしていなかったと報告されています。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、年齢と身体活動レベル別に推定エネルギー必要量が提示されています(図1)。また、栄養量の確保に加えタンパク質の摂取も重要です。タンパク質を筋肉に合成する仕組み(筋合成感度)は加齢により低下するため、高齢者では若年者よりも積極的にタンパク質を摂取することが推奨されています。また、フレイルの予防や改善には十分なタンパク質摂取が重要であり、タンパク質をより多く摂取しているほどフレイルに進行するリスクが低下したと報告されています。
図1)高齢者が必要なエネルギー量・タンパク質推奨量
日本人の食事摂取基準(2025年版)Ⅱ各論 2対象特性「高齢者」395-396ページ(厚生労働省)(https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316473.pdf)を基に作成
栄養状態が低下する背景には、急性疾患や消化器症状、認知症や終末期に伴う摂食嚥下機能の低下、食欲低下、偏食、拒食などさまざまな要因があります。単に食べる量を増やすだけでなく、栄養不足に至る原因を理解する必要があります。特に高齢者では、歯や入れ歯の痛み・不具合、口腔機能の低下などが食事に関連している場合もあります。
高齢者の栄養状態を簡便に評価する方法として、MNA®やMNA-SF®という質問票が広く用いられています。寝たきりなどで身長・体重が測定できない場合にも、下腿周囲長(ふくらはぎの太さ)を計測することで判定することができます。
施設や病院では、1日3食、栄養管理された食事が提供されます。しかし在宅で生活する高齢者は、毎日さまざまな食品をバランスよく、かつ適正な栄養管理のもと食べることは難しいことがあるかもしれません。例えば、一日2食しか食べない、お腹が空かないので食べる量が減ってきた、ということが続くと、短期間で体重減少につながることがあります。
体重を1kg増やすためには、理論上約7000kcalの余剰エネルギーが必要とされています。特にさまざまな疾患を抱える高齢者の場合、減ってしまった体重を元に戻すことは簡単なことではなく、長期的な栄養管理が必要です。
日々の生活に取り入れやすい食事の工夫として、①マヨネーズやオリーブオイルを活用して油によりエネルギー量を増やす、②蒸すのではなく焼く・揚げるなど油を使用する調理方法への変更、③間食を取り入れる、④補助栄養食品やMCTオイル、たんぱく質強化食品を活用する、などがあります。
嚥下調整食は、食べ物の流動性やまとまりやすさが調整されており、噛みづらさや飲み込みづらさがある高齢者に提供されることが多い食事です。むせや誤嚥のリスクを減らす一方で、通常の食事よりも水分量が増えるため、栄養管理には注意が必要です。
例えば、お茶碗1杯分(150g)の米飯のエネルギー量は234kcalですが、同量のお粥では98kcalとなります。同じ重量を食べていても、摂取できるエネルギー量は大きく減少します。市販のレトルトの嚥下調整食を利用している場合、たくさん食べているつもりでも意外とエネルギー量が確保できていない、ということもあります。
近年では、栄養強化された商品が販売されていますので活用してみてもよいでしょう。必要に応じて、タンパク質パウダーやMCTオイルを追加し、栄養量を補うことも有効です。
ヒトは、飲み物や食事から水分を摂取し、ほぼ同じ量を体外に排出することで体内の水分バランスを保ち、生命活動を支えています。そして、汗をかいていなくても、皮膚や呼気から水分が失われています(不感蒸泄)。健常成人では、1日に約900mlの水分が不感蒸泄で失われます。
高齢者が必要な1日の水分量は、一般的に体重×25〜30mlとされています。例えば、体重60kgであれば1,500〜1,800mlとなりますが、この中には、飲み物だけでなく食事で摂取する水分も含まれます。
高齢者では、子供や成人と比べて体液量の割合が減少します(図2)。そのため、水分摂取量の減少や、下痢や嘔吐などによる体液の消失によって脱水症を引き起こすリスクが高いといえます。また、高齢者の特徴として、のどの渇きを感じにくい、利尿剤の服用、トイレの回数を抑えるために水分を摂取したがらない、腎機能低下、疾患等による水分摂取量の制限、認知機能の低下など、水分摂取量が減少しやすい要因が多数挙げられます。水分摂取量が不足している場合には、その要因を考えることも必要です。
図2)体液とは
飲み物だけでは水分摂取量が不足する場合には、味噌汁やスープなど食事として摂取する水分量を確保しましょう。一日の中で水分摂取をするタイミングを決めておき、こまめに摂取するのもおすすめです。尿量の減少や、立ちくらみ、脈拍の増加などは脱水症のサインとなるため、日々の健康状態を観察することも重要です。
また脱水症対策として、住環境の整備も大切です。特に夏季には、室内の温度や湿度を管理し、重ね着をしすぎていないか、布団の中で汗をかいていないかなどに注意しましょう。
コンビニやドラッグストアでさまざまなスポーツドリンクや経口補水液が販売されていますが、どのような時に飲むとよいか知っていますか。
スポーツドリンクは糖類が多く配合されており、日常の水分・エネルギー補給に適しています。経口補水液は水分と電解質が効率よく吸収されやすいように調整されており、高齢者の脱水症の改善に有効であると報告されています。ただし、塩分が多く含まれているため、日常的に摂取すると塩分過多になりやすく注意が必要です。
いずれの飲料についても、心疾患や腎機能低下、糖尿病などがある高齢者が摂取する場合は、糖分や塩分の摂取量について医師と相談して決めるようにしましょう。
高齢者の栄養や水分の不足は、体重減少やフレイル、脱水症だけでなく、生活機能の低下や入院リスクの増加にもつながります。日々の食事量や体重変化、飲水状況を観察し、小さな変化に早く気づくことが重要です。気になる変化がみられた場合には、医師、歯科医師、管理栄養士など多職種と連携して対応しましょう。
• 令和6年度国民健康・栄養調査, 厚生労働省
• 日本人の食事摂取基準(2025年版), 厚生労働省
• Shinozaki N, Murakami K, Masayasu S, Sasaki S. Usual Nutrient Intake Distribution and Prevalence of Nutrient Intake Inadequacy among Japanese Children and Adults: A Nationwide Study Based on 8-Day Dietary Records. Nutrients. 2023; 15(24):5113.
• Watanabe D, Yoshida T, Watanabe Y, Yamada Y, Miyachi M, Kimura M. Frailty modifies the association of body mass index with mortality among older adults: Kyoto-Kameoka study. Clin Nutr. 2024 Feb;43(2):494-502.
• Mendonça N, Rodrigues AM, Henriques AR, Canhão H, Raimundo A, Celis-Morales C. Protein intake and transitions between frailty states in middle-aged and older adults: a multi-state transition model in the UK Biobank. BMC Med. 2025 Nov 7;23(1):621.