要介護高齢者のお口の中は、加齢や歯周病の進行によって歯肉が退縮(歯茎が下がる)し、本来は歯茎の中に隠れているはずの歯の根元が露出してきます。
この露出した根元にできる「根面う蝕(根面むし歯)」が、高齢者特有の最も注意すべきう蝕好発部位(図1)です。
図1.高齢者のう蝕好発部位
エナメル質に覆われていないため進行が非常に早く、気づいた時には神経まで達しているケースが少なくありません。また、要介護状態になるとお口を動かす機会が減り、唾液の分泌量が低下して自浄作用が弱まります。
プラーク(歯垢)や舌の汚れ(舌苔)が溜まるとお口の中で細菌が爆発的に繁殖し、歯周病を悪化させるだけでなく、その細菌が唾液や食べ物と一緒に気管に入り込むことで「誤嚥性肺炎」を引き起こす原因になります。
そのため、丁寧な口腔ケアによってお口の中を清潔に保ち、細菌数を減らすことは、命に関わる誤嚥性肺炎を予防するために極めて重要なアプローチとなります。
高齢者の歯周病予防において、狙うべき最重要ポイントは「歯と歯茎の境目(歯肉溝)」です。ここにプラークを残さないための具体的な当て方は以下の通りです。
歯ブラシの毛先を、歯と歯茎の境目に向けて45度の角度で当てます。(図2)
図2.正しい歯ブラシの当て方(バス法)
ゴシゴシと大きく動かすのではなく、毛先を溝に挿入したまま、1〜2本の歯を狙って優しく小刻みに振動させます。
これにより、歯周ポケット内のプラークを効率よく掻き出すことができます。
高齢者の歯根面や歯茎は非常にデリケートです。力が強すぎると歯根が削れたり、歯茎を傷つけたりします。
軽い力で当てるよう意識します。
自分でのブラッシングが不十分な場合、介助者が行う仕上げは手際よく、かつ効果的に行う必要があります。
通常の歯ブラシだけでは、後ろに傾いた歯や、歯が抜けて孤立している部分(孤立歯)の根元に毛先が届きません。
そこで、狙ったところへピンポイントに届くコンパクトな「ワンタフトブラシ」(図3)がおすすめです。磨きにくい孤立歯の根元や、歯と歯茎の境目にしっかりフィットし、軽い力でも確実にプラークを掻き出せます。
図3.ワンタフトブラシの活用
細菌の温床となりやすく、口臭や誤嚥性肺炎の大きなリスクとなるのが、舌の表面に付着した「舌苔」です。(図4)
これを放置したまま歯だけを磨いても十分な予防になりません。ケアの際には必ず「舌ブラシ」を使用し、舌の奥から手前に向かって優しくなでるように汚れをかき出します。
歯ブラシや粘膜ブラシ(スポンジブラシ等)でお口の中の粘膜や歯茎を優しく刺激したり、頬の内側をストレッチするようにマッサージしたりすることで、唾液腺が刺激されて唾液の分泌が活発になります。
唾液が増えるとお口の自浄作用が高まり、細菌の繁殖を抑え、さらに食べ物を飲み込みやすくなるという好循環が生まれます。
認知症や緊張、噛みしめによってお口を強く閉じてしまう方には、無理に指やブラシを差し込んではいけません。奥歯の後ろにある「Kポイント」(臼歯後三角のやや内側にある、顎を動かす神経が集まるポイント)を意識しましょう。(図5)
まず、人差し指で頬の内側を外側に優しく押し広げ、奥歯のさらに奥にある粘膜のくぼみ(Kポイント)へ、指の腹や湿らせたスポンジブラシで「優しく、少し圧をかけるように」触れます。このポイントが刺激されると、噛みしめが緩んで自然にお口が開きやすくなる反射が促されます。
図5.Kポイントの位置と刺激
• 日本歯科医師会.「テーマパーク8020:根面う蝕」
• 日本老年歯科医学会 編.『老年歯科医学 第3版』,医歯薬出版
• 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット