手足口病は、例年夏を中心に流行し、7月下旬にかけて流行のピークを迎えることが多い感染症です。しかし、秋から冬にかけても感染が見られることがあり、季節を問わず年間を通した警戒と対策が必要になっています。園内で1例でも疑わしい症状が見られた場合は、地域の流行状況、同じクラスでの欠席状況、兄弟姉妹の発症状況などもあわせて確認しましょう。流行期には、登園時の様子や食事・水分摂取の様子の確認を普段より丁寧に行うことが大切です。 特に低年齢児クラスでは、口に物を入れる行動が多いため、流行情報を確認した時点で、職員間で注意点を共有しておくことが重要です。
手足口病を引き起こす主な原因は、エンテロウイルスというグループに属する複数のウイルスです。
原因となるウイルスが複数あるため、一度手足口病にかかっても、別のウイルスによって何度も発症することがあります。そのため、「以前かかったことがあるから大丈夫」とは言えません。
おおむね3〜6日程度の潜伏期間の後に口の中、手のひら、足底、足の甲などに水疱性の発疹がみられます。症状がはっきり出る前から周囲に感染を広げる可能性があるため、発症者だけでなく、園内全体で日頃の手洗い・環境整備を継続することが重要です。
潜伏期間から感染力を持ちますが、発症初期、特に症状が出た最初の数日〜1週間は感染力が高い時期となり、特に注意が必要です。
2026年現在、手足口病に対して国内で承認されたワクチンや、特効薬(抗ウイルス薬)はありません。そのため、解熱鎮痛薬等を用いる対症療法が中心となり、園内では物理的にウイルスを持ち込まない・広げないといった対策が重要な防衛手段となります。
乳幼児は喉の痛みなどを言葉で伝えることができません。そのため、以下の症状・サインに気づくことが重症化を防ぐカギとなります。
手、足、口の中の水疱(水ぶくれ)、発熱などが主な症状となります。ただし、発熱は38度以下にとどまることも多く、高熱がないからといって手足口病を否定することはできません。
<特有なサイン>
<危険なサイン>
繰り返す嘔吐、けいれん、強い頭痛。
尿量が極端に少ない、泣いても涙が出ない、口の中が乾いている。
ぐったりしている、高熱が持続している、呼吸がいつもより苦しそうに見える。
これらの危険なサインが見られる場合は、保護者の園への到着を待たずに医療機関に受診するようにしましょう。
手足口病は、以下の複数の感染経路をもつため、保育現場において容易に感染が拡大します。
飛沫感染:咳やくしゃみ、会話のしぶきを吸い込むことによる感染。食事や午睡前後など、子ども同士の距離が近くなる場面では注意が必要です。
接触感染:皮膚の水疱の液に触れたり、ウイルスが付着したおもちゃやドアノブに触れた手で、口や目をこすることによる感染。共有物を介して広がりやすい。
経口(糞口)感染:便の中に排出されたウイルスが、おむつ交換などを介して職員の手から配膳や食事を通じて口に入ることによる感染。
感染対策は、誰か一人だけが対策を実施するものではなく、全体で同じ手順を繰り返すことで効果が高まります。手洗い場の石けんやペーパータオル、使い捨て手袋、消毒薬などは、流行期の前から不足がないか確認しておきましょう。
石けんを使った流水での手洗いが最も有効です。おむつ交換後、鼻水を拭いた後、配膳や食事介助の前、外遊び後、トイレ介助後は特に念入りに行いましょう。発症後や、登園再開後の子どもには、特に手のひら・手の甲・指の間・爪の周りを頻回に洗うように促しましょう。
アルコールの効果は限定的であるため、唾液や便・吐物で汚染された場所、汚染が疑われる物品は、洗浄・清拭後に次亜塩素酸ナトリウム(おもちゃやドアノブ消毒:濃度0.02%、嘔吐物や便処理:濃度0.1%が推奨)を用いて消毒します。消毒薬は事前に濃度、使用期限、保管方法を確認しましょう。
タオルやコップの共用は避け、個人ごとに区別します。特に流行期などにおいて、口に入れやすいおもちゃ等は使用後に回収し、洗浄・乾燥・消毒の流れを作ることが効果的です。
吐物や便の処理は以下の手順で確実に行います。
防護する:処理者は使い捨て手袋、マスク、エプロンを着用する。
取り除く:ペーパータオルで外側から内側へ静かに集めて拭き取る(こすり広げない)。
消毒する:拭き取った箇所を次亜塩素酸ナトリウム(0.1%)で浸し、時間を置いてから拭き取る。金属部分や子どもが直接触れる場所は、消毒後に必要に応じて水拭きを行います。
廃棄と手洗い:汚染物は二重袋で密閉し、手袋を外した後は必ず石けんで手洗いをする。処理後は、処理場所、使用した物品、対応者を簡単に記録しておくと、後の確認に役立ちます。
感染疑いの子どもが出た際には、同じクラスで似た症状が増えていないかを確認し、必要に応じて園内で情報共有しましょう。また、行政の流行情報を確認しつつ、「もしかして」と疑った時点で対応を開始することが感染拡大を防ぐ要です。以下に迅速に隔離や別室対応の判断するタイミングを示します。
皮疹や水疱がある、食事や水分を口にしない、よだれが急に増えたなどの異常に気づいた場合、速やかに別室での安静・見守りを検討しましょう。
上記以外で判断に迷う場合でも、子どもの安全確保(脱水予防など)を最優先とし、保護者へ連絡するまでの間、他の子どもとの接触を減らして見守りましょう。
隔離は物理的な隔離だけではなく、人・場所・物を分けることをセットで運用するようにしましょう。ここでの隔離は、法律上の厳密な隔離ではなく、保護者の迎えや受診までの一時的な別室対応を指します。子どもに不安を与えないよう、落ち着いた声かけと見守りを行うことも大切です。
換気できる別室で他の子どもと距離を取り、可能な限り対応する職員を固定し、タオルなどは専用のものを使用します。同時に水分が摂れるか、尿が出ているか、機嫌や活気に変化がないかを確認しましょう。保護者へ連絡する際は、「手足口病だと思います」と推測するのではなく、「口の中を痛がる様子がある」「水分が十分に摂れていない」など、園で確認した事実を中心に伝えましょう。
手足口病は法律上の登園禁止期間はありませんが、発熱がなく、普段通りの食事や水分が摂れるようになり、活気が戻ることが登園再開の目安となります。発疹が完全に消えるまで登園できない、という扱いにする必要は通常ありませんが、園の規定や医師の指示がある場合はそれに従いましょう。
症状改善後も、感染力は低くなっていますが、唾液や鼻汁などには1~2週間程度、便の中にはさらに数週間(長い場合は数か月)にわたりウイルスが排出され続けることがあります。そのため、登園再開後も、手足口病にかかった子どものおむつ交換時の手袋着用と頻回の手洗いは引き続き徹底するようにしましょう。
また、流行が落ち着いた後は、発症時の対応、保護者連絡、消毒やおむつ交換の手順に混乱がなかったかを簡単に振り返り、次回の対応に生かすことも大切です。日々の小さな記録と振り返りが、次の流行時に慌てない体制づくりにつながります。
保護者に受診を依頼する際、医師が迅速に診断・指示を出せるよう、推察ではなく事実を正確に伝達するようにしましょう。以下の情報は、受診時の判断材料として非常に有用なものとなるため、保護者にしっかり共有するようにしましょう。
いつから:最初の発熱や水疱に気づいた時間。登園前からあったのか、園で新たに気づいたのかも伝えましょう。
どんな状態:現在の体温、水分が摂れているか、尿が出ているか、食事を嫌がらないか。可能であれば、最終排尿時刻、飲水量、嘔吐の回数、よだれの増加の有無も共有しましょう。
周囲の状況:同じクラスや園内で手足口病(または似た症状)が流行しているか。発症人数、欠席状況、兄弟姉妹の発症情報が分かる範囲で伝えましょう。
手足口病の感染拡大を防ぐためには、職員全員が「なぜその行為が必要か」を正しく共有し、同じ基準と同じ行動で対応することが不可欠です。特に、手洗い、おむつ交換、環境整備など、日頃から実施するタイミングや方法などの手順を日頃から確認しておきましょう。子どもの症状変化への気づきと、標準化された対策が、子どもたちや職員の健康、そして安心できる園の運営を守る最大の力となります。